大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡高等裁判所 昭和31年(ネ)543号 判決

控訴人 原告(反訴被告) 破産者 行徳峯次郎 破産管財人 村田利雄

被控訴人 被告(反訴原告) 村田次七

訴訟代理人 山崎信義

主文

本件控訴を棄却する

控訴費用は控訴人の負担とする

事実

控訴人は「(1) 原判決中控訴人勝訴の部分を除いて、その余を取り消す。(2) 被控訴人は控訴人に対し原判決添付目録(一)記載の土地・家屋につき、昭和二四年二月九日福岡法務局西新町出張所受付第五〇七号をもつてなされた、同年一月二七日付売買予約による所有権移転請求権保全の仮登記の抹消登記手続をせよ。(3) 被控訴人の反訴請求を棄却する。(4) 訴訟費用は第一・二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は、控訴棄却の判決を求めた。

事実及び証拠の関係は、当事者双方が「原判決添付目録(二)の(ロ)中福岡清吉とあるのは、福田清吉の誤記である」と一致陳述し、控訴人において、甲第一一号証の一から五、第一二・第一三号証の各一から三まで、第一四号証を提出し、当審証人高山嘉一郎・行徳峯次郎・吉田親助の各証言を援用し、乙第八・九・一〇号証の成立を認め、被控訴人において、乙第八・九・一〇号証を提出し、当審証人白水利喜太の証言、当審鑑定人進藤鶴吉の鑑定の結果を援用し、前示甲号各証の成立を認め、乙第四号証の一・二は原審において控訴人の同意を得て、すでに撤回しているものであると述べた外は原判決に示すとおりである。(ただし、被控訴人の援用する原審被控訴本人の尋問の結果は、二回でなく前後三回である。)

理由

当裁判所の審理の結果に徴するも、原判決が排斥した控訴人の控訴の趣旨(2) 記載の請求は失当であつて棄却すべく、被控訴人の反訴請求は正当として認容すべきものと判定する。その所以は、以下付加訂正する以外は、原判決の「理由」に示すとおりである。

一、昭和二四年一月二八日本件停止条件付代物弁済契約が締結された当時における破産者行徳峯次郎の負債・資産(積極財産)の概況は、この点に関する原判決挙示の証拠の外、成立に争のない甲第一一号証の一・二・三、乙第八・九号証、当審証人行徳峯次郎の証言の一部・同高山嘉一郎・同白水利喜太の各証言、当審被控訴本人の尋問の結果を総合すれば、負債としては、原判決認定の元金七〇万五千円及びその利息損害金の外、(1) 昭和二二年六月一〇日訴外竹山松五郎から借り受けた元金四万円・弁済期同年八月一〇日・利息の定めのない借入金。(2) 昭和二三年一〇月二〇日訴外阿部豊から借り受けた元金五万円・弁済期昭和二四年二月末日・利息の定めのない借入金。(3) 昭和二三年一二月二〇日訴外本村美津代から借り受けた利息・弁済期の定めのない八万円の借入金。

以上元金計一七万円と右(1) の四万円に対する期限後の法定利率による損害金の負債が存したのみで、福岡銀行に対する現実の債務はいまだ発生しておらず、(甲第一一号証の一には昭和二三年七月四日本村美津代が行徳峯次郎に対し一〇万円を貸しつけたように記載してあるけれども、右金員は同人の子行徳益人が本村美津代から借り受けたものであつて、行徳峯次郎の債務でないことが認められる。)他面資産(積極財産)は、(1) 原判決添付目録(一)の時価一〇〇万円位の土地家屋。(2) 原審認定のように純益二〇〇万円位を収めうる同目録(二)の山林の外(3) 時価二万五千円ないし三万円の電話加入権・新品の自転車二台・相当の価格を有する電蓄・豪華な調度品その他の備品・家具類を有していたことが認められるので、原判決説示のとおり前示停止条件付代物弁済契約は他の原因によつて破産財団に回復しうるや否やは格別として、破産法上の否認の対象となるべきいわれはないと解するのが相当である。

以上の認定に反する原審及び当審証人行徳峯次郎・原審証人行徳イツノの証言は、援用の証拠と対比して信用できず、その他に右認定を左右するに足る証拠はない。

二、前認定のように、被控訴人は昭和二四年一月二八日行徳峯次郎に対し、三〇万円を利息月一割(右一に挙示の証拠によると、利息は前払されている)。弁済期同年二月一〇日の約でその営業資金に使用されるために貸し付け、これと同時に同人との間に弁済期に元金三〇万円が弁済されないことを条件として、同人所有の本件土地・家屋の所有権が代物弁済として被控訴人に移転する旨の停止条件付代物弁済契約を締結したのに、これが登記に現われたところを見るに同年二月九日福岡法務局西新町出張所登記受付第五〇七号をもつて、本件土地・家屋につき、同年一月二七日付の売買予約を原因とする所有権移転の請求権を保全するための仮登記がなされており、仮登記の原因及び日付においてその間相違をきたしているのであるが、これは、前認定事実に徴し成立を認めうる甲第一〇号証の一、原審証人望月見吉・松尾賢一の各証言、原審被控訴本人尋問の結果を考え合わせると、右三〇万円の消費貸借及び条件付代物弁済契約は、昭和二四年一月二八日の数日前から弁護士等法律家の介在なしにその交渉が始められ、同月二六・七日頃には、「同月二八日三〇万円の授受があるものとして」前示内容の消費貸借及び条件付代物弁済に関する当事者の合意が成立したこと及び右条件付代物弁済契約については、ついにその契約証書が作成されなかつたこと、そして、かかる事情の下において、前認定の本件契約が売買の予約ではなく、停止条件付代物弁済であることを簡明に他人に開陳して、これに基く仮登記申請書類の作成を委嘱し、またその委嘱に応じてその書類を作成するには、関係当事者において相当法律の専門知識を必要とするのはいうまでもないのであるが、この知識があるとは容易く推測しがたい被控訴人及び行徳峯次郎の委嘱を受けこの委嘱に応じて、司法書士松尾賢一が本件仮登記申請書類を作成し、右両名の代理人となつて仮登記申請をなしたことなどの一連の事情から、本件仮登記とその実体関係との間に前示の差異を生ずるにいたつたものと解するのが相当である。

三、ところで、以上の認定事実から推知されるように、仮登記申請書に、仮登記原因の日付として、昭和二四年一月二八日と記載すべきところを、同年同月二七日と記載し、仮登記の原因として、昭和二四年二月一〇日までに、元金三〇万円の支払がないことを条件とする停止条件付代物弁済契約による所有権移転とすべきところを、売買予約による所有権移転請求権の保全と記載したため、右申請書の記載に対応する仮登記の記載がなされた場合においても、仮登記原因の日時において僅か一日の差異の存することは、仮登記の効力を左右するものではなく、後日停止条件が成就し、仮登記の目的たる不動産所有権が仮登記権利者に移転したときは、仮登記権利者は、仮登記義務者に対し、仮登記の原因及び日付について更正登記を求める請求とともに、あるいは、更正登記を求める請求を併合しないで、仮登記に基いて本登記を請求しうるものと解すべきで、これは、更正登記並びに仮登記の効力性質に照らし、むしろ当然である。

したがつて、本件において、仮登記とその実体関係との間に前示相違の存することは、被控訴人の反訴請求を認容するの妨げとなるものではない。

されば、以上と結論を同じくする原判決は相当で、控訴を理由なしと認め、民事訴訟法第三八四条・第九五条・第八九条にしたがい主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 鹿島重夫 裁判官 秦亘 裁判官 山本茂)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例